染色にはいくつか重要な工程がありますが、今回のテーマは「糊置き」です。糊置きには二通りの方法があることをご存知でしょうか。ひとつは「型糊置き」。型紙を固定し、へらなどを使って糊を置く方法で江戸小紋や紅型に使います。もうひとつは「糸目糊置き」という技法で、友禅染めに使われています。
「糸目糊置き」の工程では、水で洗い流すと色が落ちる染料「青花(あおばな)」で下絵を描き、円錐形の容器に入った柔らかな糊を押し出しながらなぞっていきます。指先の力を加減しながらの作業は、まさに糊をそっと「置いて」いく感じ。集中と鍛錬なくして繊細な線は描けません。
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糊置きが終わり、「豆汁(ごじる)」を使っての地入れ、彩色、糊ふせ、染め、蒸しの工程を経て、糊を洗い流すと絵筆で描いたような美しい白い線が現れます。
糊置きの役目は防染(ぼうせん)。挿した色がにじみ出て隣の色と混ざるのを防ぐためですが、図柄の輪郭線にもなるため、たとえば花びらの色を挿した時にその形を際立たせる役目もあります。

道のギャラリーでのれんを眺めたとき、色と色とをパキッと分ける「白い線」に出会ったら、近寄って目を凝らしてみてください。鮮やかな色彩の中に精魂込めて置いた「糸目糊」のあとを見つけることができるはず。作家さんの息づかいも味わえますよ。(さ)
(取材・撮影協力:東京手描友禅工房 協美)