大江戸線と西武新宿線の中井駅のちょうど間、妙正寺川と並行する小道には、川に面するかたちで、染めの工房や湯のし屋さんが軒を連ねます。
その中の一軒が、おかめ工房さんです。
工房では教室が開かれており、生徒さんたちがイベントのためののれん作りに励んでいました。
今回おかめ工房さんから出品されるのれんは全部で9枚。四季折々の花や樹に囲まれる民家の柄は和菓子屋「おゝき屋」さんに、野菜をモチーフにしたのれんは、焼肉屋「牛清」さんにかかるそうです。
生徒さんを指導する一方、作業場で自分の作品を制作するのが、山本加代子さんです。
35歳で紅型染めに出合い、ハマりこみ、知人に紹介されて4年前に中井に工房を構えました。「川がすぐ下を流れていて、一目で気に入りました。昔のように川で反物を洗えたりすれば、もっと素敵ですけれどね。小鳥さんが多いので、反物も外に干せないのですが、それでもすごく気に入っています」。
窓を開けると、まさに「川のギャラリー」を見るのにベストなロケーションです。
紅型染めは、型紙を彫って、生地に型紙を置いて、その上から糊を置き、糊のない部分に顔料で染色する沖縄の伝統的な染色工芸で、沖縄の自然をモチーフにした柄と鮮やかな色彩が特徴です。
ただし山本さんが出合い、惹かれたのは、もっと都会風なもの。
沖縄にとらわれず、蓮や桜、犬張子、鯉などのモチーフを自由な構図で型染めしています。
「染の小道」のために選んだモチーフは、「しだれ桜・霞・山・月」。
工房の入り口に掛ける、重要なのれんです。大きさは縦が150cmで、38㎝幅を3本。「好きなモチーフで、前からやろうと思っていた柄です。すでに型紙はできていたので、これだ!と。季節的にも春一番な感じでいいんじゃないかしら」。
ちなみに型紙を彫るのは、息子さん。サラリーマンをしながら、手伝ってくれています。
母子で作る大作です!
取材当日は、桜をピンクに染めているところでした。
弁柄という少し茶色っぽい顔料を呉汁で薄めて、ピンクにします。呉汁は大豆の汁で、発色をよくし、生地に色を定着させる効果を持ちます。
刷毛で、少し力を入れて色を刷り込みます。
最初は薄い色を挿し、さらにそこに色を重ね、最後に濃い色で隈を付けます。この隈の色使いや挿す場所で、雰囲気が変わってきます。
「背景はグレーにして、あまり派手でないものにしようと思います。色は感覚的に決めていきます。昔から絵を描くのが好きだったんですよ」。
花のグレーは墨に呉汁を混ぜて作り、背景のグレーは黒豆で染めるそうです。
薄い黒豆色の空に大きな月がぽっかり浮かび上がる、春の宵。
風情のあるのれんが、染の工房の玄関を飾ります。
実はおかめ工房さんも「染の小道」の中心メンバーです。
「一昨年前に『何かやろうよ』と二葉苑さんの音頭で界隈の工房やギャラリーでスタートしたイベントが、どんどん広がっていって、今年は皆がノッてきたという感じですね。他の方たちがどんなのれんを作るのかも、とても楽しみでドキドキします」。
当日は型染め体験教室を開催します(材料費込みお一人3,000円/要予約)。
色選びや挿し具合に、人それぞれの個性が表れます。
お雛様と山の風景の2型を用意して、皆さんのお越しをお待ちしています!
(by取材班)