岡野さんが蝋ぶせしている部屋の奥では型染めの職人、中野史朗さんが型紙を彫っていました。
本日(取材当日)が彫り始めだそうです!モチーフは、長崎更紗!
蘇芳色(すおういろ)使いと正方形なのが特徴で、今はもう作り手が途絶えてしまっています。
「持っていた和更紗の本の著者、熊谷博人さんに昨年末お会いする機会があり、江戸時代の長崎更紗を預かることができました。将来的に復刻してみたいとは思っていたのですが、今回のような機会を得て、思い切ってやってみよう!と思いました」と中野さん。
見せてくださった原型の長崎更紗は、中心に大陸の風景や人物の絵が入り、額縁のように周りを柄が囲みます。
実は中野さんは“人間の手で彫るものの限界を超える”伊勢型紙に魅せられて、染色の道で生きることを決めました。
そしてここ2年ほど、更紗の型彫りを習うべく、伊勢の型紙職人、内田勲さんのもとに通っています。
「更紗って染めの中でも本当にマイナーで、扱っている人はごく僅かなんです。内田さんは更紗を彫れる数少ない職人さんです。僕は染めの職人ですし、型彫りは素人同然なのですが、それでも内田さんが教えてくださるのは、更紗の型彫りを受け継いでいる人が誰もいないからです。継承していきたいです」。
この図案は1色につき1枚の型紙が必要ですから、12~13枚を彫るそうです。
果てしない気がします……。
ミリ単位のズレも許されませんから、常に気を抜けません。
この型紙を生地の上に置き、丸刷毛で色別に染料を摺り込むという作業を繰り返して染め上げます。
出来上がったのれんは西武新宿線中井駅の改札を出たところすぐの老舗和菓子屋「風月堂」さんに掛かります。
「事前にお店にご挨拶に行ったところ、店主さんが京都出身の方で、染めに詳しく、更紗も知っていらっしゃって。エキゾチックな柄になるので和菓子屋さんには敬遠されるかと思いましたが、快く理解していただきました」。
しかも横140cm×縦250cmの超大型のれん!
「風月堂」さんらしいモチーフも盛り込まれるそうです。
「『道のギャラリー』ののれんはアマチュアもプロも関係なく参加します。プロの我々が簡単なもので済ませてはいけないですよね!」
時空を超えて復刻された異国情緒のある染めの世界が、電車でお越しのお客様をお迎えします!
(by取材班)